他より値段が高かったけどそのお店で即決することにした話
先日は革靴のハーフラバ-を貼る補強のため近所の老舗靴屋に行きました。
今回依頼した修理は相場よりも高い工賃だと分かっていたにも関わらず、あえてそのお店を選びました。
私がネット等で調べた限りでは、修理費の相場は3,000円を少し上回る程度。
一方、今回の修理費は5,000円でした。
日頃からコスパ感覚には敏感(と自分では思っている)で、今回もいくつか候補のお店を回ってからどのお店に頼むかを決めるつもりでいたのですが、珍しく即決しました。
その時の心情の変化が自分でも印象深く、客側の気持ちの変化を体感することで自分が接客側になるときのヒントを得るきっかけとなったので書き起こしてみようと思います。
◆最初の印象ってとても重要
冒頭で書かれたように今回の買いものは一見すると非合理です。
それでも今回のような行動をとったのには、いくつか理由があります。
まずは、店員(息子さん)の接客が良かったということです。
80歳くらいのおじいちゃん職人には「修理できるよ!」コールをひたすら続けられたので会話になりませんでしたが、息子さんとはまともに会話することができました。
彼は50代くらいのおじさんでしたが、20代の私にも丁寧な態度と言葉遣いで接してくれました。
客に対してなんだから当然と言えば当然ですが、個人店だと殿様商売でぞんざいな応対をしてくるところとか、チェーン店であっても無愛想な人はたくさんいますし。
何回か会話をする中で私の中にも次第に安心感が生まれ、ここならいろいろ相談してみてもいいかもしれないと思いました。そう思ったのが話し始めてから1分程度。
店員の態度が悪いとその場にいること自体が苦痛になって帰りたくなりますよね。そうなると店側としては売り上げには結びつきません。店員としては、まずお客さんに安心して要望を話してもらえるな関係づくりに気を配る必要がある。
だから、最初の印象はとても大事。特に第一印象は会ってから7秒で決まるとも聞きます。
お客さんは話始める前から店員の表情、姿勢、しぐさなどの非言語コミュニケーションからの雰囲気を手がかりに、心地よい・不快などの印象を抱きます。
そしてその時抱いた印象は、接客が終わる時まで影響を与えます。
良い印象であれば店員の話がすっと自分の中に入ってくる。私も今回はそうでした。その後の会話も良い印象の連鎖を生み、最終的には修理を依頼することにしました。
一方で、印象が良くない場合にはどんなに良い腕の職人であることをアピールされても押し売りのように感じてしまい即決には至らなかったと思います。
イメージとしては、印象が良いと飛行機の発射台の位置が高く、購入を決めるライン(高度)まで早く到達するという感じでしょうか。
それが悪印象だと低い場所から離陸しなければならず、購入ラインまでには雲などの障害があって到達まで時間がかかったり、あるいは障害に阻まれ到達前に引き返してしまう(買わない)ということもあるでしょう。(この感覚、伝わるだろうか。。)
ともあれ、その後の商品やサービスの説明がどんなに優れているものだとしても、最初の印象によって伝わり方が違ってくることを実感しました。
リピーターのことを考えると、最初の印象は接客後にも影響してくると言えるかもしれませんね。
◆ありのままを言葉にして伝えるだけで
もう少し突っこんだ話をしてみようと思った私は、肝心の修理費を訊きました。
5,000円と聞かされて「高いな。」と感じた私は、やはり他のお店もあたってから考えようという気でいました。
すると、息子さんの方からハーフラバーをつけることのメリットなどをいろいろ解説してくれました。
彼が言うには、「これだけしっかりとした作りの靴ならばハーフラバーで補強をすればオールソールをしなくても済むので、10年以上履くことが可能」とのことでした。
また、「安かろう悪かろうの風潮の中で、靴にこだわりのある人は珍しい、しかもしっかりと手入れをしている」、「4,5万くらいの靴でしょう?」とも。
(実際には安く買えたので2.5万円程度だった。)
セールストークとはいえ、迷っている私を後押しするような追加の説明があったのはありがたかったです。おそらくそれがなければ私はそのまま店を後にしていたことでしょう。
そして何より、靴の良さを認めてくれたことで私の心はぐっと引き寄せられたのでした。
我ながら単純ですが、やっぱり自分が良いと思っているものを誰かに認めてもらえると嬉しいですよね。
先ほどのやり取りの中において、言葉だけを見れば彼は靴を評価しているにすぎません。
ただ私としては同時にその靴を選んだ私のセンスも肯定されたような感覚になりました。
私はこの靴を選ぶまでにかなり悩んだり探し回ったりしています。最近はましになってきましたが、靴擦れにもかなり悩まされました。
言ってみれば、かなりの手間と労力をかけている代物です。
そうした見ただけでは分からない部分を認めてくれるような言葉を他人にかけてもらえると自然と嬉しい気持ちになるものです。
実際に息子さんは靴の良さを「褒めた」わけではありません。
「作りがしっかりしている」「ずっと履き続けられる」「今時こだわりのある靴は珍しい」「手入れがされている」など、見て分かることをただ指摘しただけです。
しかし、それらの言葉は私が大事にしている価値観を言い当てていました。その価値観が良いとか悪いとかの判断をしているわけではないのに、ありのままに認めてくれるだけで嬉しい。
仮に彼が私のセンスをあからさまに褒めたとするならば、私は嬉しさよりも恥ずかしさの方がより強く感じられたのではないかと思います。一般的に日本人って面と向かって褒められるのに慣れていないじゃないですか(笑)。
それに褒める行為は時に裏の意図を感じることもありますよね。媚びることで相手を自分の思い通りにするといったような。
「事実を指摘する、ありのままを認める」ということだけで、さりげないながらも相手を肯定する。
この視点は、仕事や私生活の人間関係においても活かせる場面は多そうです。
◆この店にお願いしてみよう
ここまでのやりとりによって、私と彼の距離はだいぶ縮まりました。
せっかくだからと靴擦れに悩んでいることや対策の方法までかなり多くのことを質問しましたが、彼は嫌がる様子も見せず最後まで親切にアドバイスしてくれました。
ここまで親切にされると「では、他をあたって検討してみます」といって帰るのは気が引ける。ものの10分程度しか話していないけれど、悪い店ではなさそうだし腕もしっかりしている様子。値段の安いところで頼んで工場で仕上げてもらうのも良いけど、ここまでのやり取りと手作業でやってもらうというのも思い出に残ってより一層この靴に愛着が湧きそう…。
というわけで、この店で修理を依頼することにしました。
息子さんの接客が意識的なものなのかは分かりませんし、抜群に接客がうまかったというわけではありません。
ただ、これまで様々なものを買うため数えきれないほど接客を受けてきた中で、この買い物は妙にはっきりと私の心が変化していく様子が見て取れた出来事でした。
それがとても面白く感じたので「あのやり取りの一つひとつにはどんな意味があったんだろう?」と振り返ってみたくなり書き起こしました。そのためここに書かれたことは完全な主観です。
それでも人との接し方の一つのモデルというかスタイルを見つけることができたので、その勉強代も含めていいお金の使い方ができたなあと思います。
他にもこの店が決め手となった心情の動きがあったけれども、長くなったので他の記事に書くことにしよう。